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ルイス・ガーズナー「巨象も踊る」

巨象も踊る

巨象も踊る

連休中に読了。IBMメインフレームの成功から抜け出せずにいた1993年、CEOに就任し見事会社を建て直したルイス・ガーズナーによる回想録。

戦略について

IBMメインフレームの販売と保守から、顧客の情報基盤に対してワンストップでサービスを展開するビジネスモデルに転換を果たしたが、ガーズナーによるクラウドに対する知見がすごい。

ネットワークによってコンピュータ技術は一変する。パソコンなどのクライアントから、企業内の大型エンタープライズシステムや雲ーつまりネットワークに負荷が移るからだ。これにより、パソコンを技術革新と投資の中心に押し上げてきたトレンドは反転する。パソコン技術で潤っていた企業への影響は、火を見るより明らかだ。

P.224-225

今では当たり前となっている認識も、この文章が2002年に書かれたものであることを思うと驚嘆せずにはいられない。

企業文化について

ガーズナーはIBMで最も困難だった仕事は企業文化の改革であったとしている。

とはいえ、決断で最も難しかったのは、技術面でも財務面でもない。それは企業文化の改革だった。文句の無い成功を収めてきたが、その結果、何十年もの間、通常の競争や経済的要因とは無縁の企業で育った何十万人の人々の考え方や本能をかえねばならなかった。社員が現実世界の中で生き、競争し、勝つようにしなければならない。これは檻の中で育ったライオンを、ジャングルの中でも生きていけるように躾けるようなものだ。

P.237

IBMでの約十年間に、私は企業文化が経営の一つの側面などではないことを理解するようになった。一つの側面ではなく、経営そのものなのだ。組織の価値は要するに、それを構成する人々が全体として、どれだけの価値を生み出せるかで決まる。ビジョン、戦略、マーケティング、財務管理の側面が正しければ、そして、経営システムの他の側面が正しければ、正しい道を進むことができ、しばらくは成功を収めることができる。だが、どんな組織も、企業に限らず、政府、教育機関、医療機関など、どんな分野の組織であろうと、これらの正しさがDNAの一部になっていなければ、長期にわたって成功を続けることはできない。

P.241

先見性のある指導者が作った企業では、二重に障害になる。企業の当初の文化は通常、創業者によって確立される。創業者の個人的な価値観、信念、好みによって作られ、創業者の風変わりな部分も映したものとなる。すべての組織は一人の人間の長い影にすぎないと言われる。

P.242

これは自分の会社との共通点だな。IBM語が多い、みたいなところも。独自の用語は本当に多い。あと略語。

ビジネスに対する情熱

ショックを受けたのは、わたしの考えやメッセージからではなかった。話し方、情熱、怒り、直截さであった。たとえば、「ぶっ飛ばす」「当社の事業をかすめとる」といった言葉だ。まったくIBMらしくない言葉、経営者らしくない言葉だ。

・・・<中略>それで、わたしはあのように発言した。わたしを知る人ならだれでも、演技ではないと断言するはずだ。わたしは競争相手をぶっ飛ばすのが大好きだ。負けるのは心底嫌いだ。

P.276

しかし何よりも、顔の見える指導とは情熱を意味する。私が知り合った数人の偉大な経営者について考えてみると、

・・・<中略>全員に、勝利への情熱が強いという共通点がある。どの日にも、どの瞬間にも勝利したいと熱望している。勝利するように会社に呼びかける。敗北を嫌う。勝利できない場合にはやり方を変えるよう求める。指導とは、距離を置き、理詰めで、冷たいものではない。顔が見えるものなのだ。偉大な経営者は何を行うか、何の為に行動するのか、どのように競争するのかにきわめて敏感である。

P.311

自分に決定的に欠けている部分だ。

大企業について

わたしが企業経営にたずさわってきたほとんどの時代にわたって、小さいものは美しく、大きいものは醜いという考えが正しいとされてきた。小企業は敏速で、起業家精神に富み、反応が速く、効率的だ。大企業は鈍重で、官僚的で、効率が低く、効率が低い。これが今までの常識である。
全くの戯言だ。大きくなりたいと思わない小企業には出会ったことが無い。規模の大きい競争相手の研究開発予算やマーケティング予算、営業部門の規模と顧客基盤をうらやまない小企業には出会ったことがない。そしてもちろん、小企業の経営者は、建前では巨人ゴリアテに挑むダビデを装っているが、本音では「あの大企業のように資源を使える立場になりたい」と語っている。
大きいことはいいことなのだ。規模は力だ。幅と深みによって、巨額の投資、思い切ったリスク負担、投資の効果を根気強く待つ姿勢が可能になる。
象が蟻より強いかどうかの問題ではない。その象がうまく踊れるかどうかの問題である。見事なステップを踏んで踊れるのであれば、アリはダンスフロアから逃げ出すしかない。

P.318-319

読み進めるうちにIBMと自分の会社を重ねずにはいられない。

IBMはもともと優秀な素質を持つ象だった、だから優秀な経営者が導いてあげさえすればすぐにまた踊れるようになったと言う見方もできる。実際IBMの基礎研究は情報技術の分野で決定的な科学的発見、発明をいくつもしている。アメリカの特許出願数もずっとIBMがNo.1だった。
だが僕は自分の会社にも優秀なひとは本当に多いと日々感じさせられているし、なにかきっかけがあればまた踊りだすこともできるのではないかと考えている。そういう意味では完全に外部から来た、技術があまりわからない外国人(ガーズナーも技術に関してはプロではない)がトップにいる今はそのチャンスの時期とも言えるのではないか。

間違いなく良書。大企業にお勤めの方はぜひ。